2007-03-10

ビエンチャンでモーケーンに会う、続き

コンタンからビエンチャン中心に戻って、今度は国立図書館を訪ねる。メコン川沿いの屋台の人や、ゲストハウスの人が皆知っているという有名なモーケーンが居ると聞いたため。

その図書館は「国立」と言いながらも、町のひなびた図書館のようなこじんまりした施設だった。入り口の女性に聞いたら、「そのうち来るから本でも見ていて」と言われてぶらぶら見学していたが、「やっぱり3時にならないと来ない」ということでゲストハウスに戻って休息。

2時間後また来てみると、今度は二階に通されて所長さんとお話しつつ、PCとかビデオ編集機がある部屋を見学。ドイツの協力で、土地の音楽や舞踊を記録するというプロジェクトが進行中なのだそうだ。ドイツの財団のことは以前、タイでも聞いたことがある。たしか今保存しないとどんどん消えていってしまう土地の芸能や音楽をデジタル化して保存するのに熱心な組織だったと思う。

そうこうしているうちに、モーケーン・トーンスァーイ・ウトゥムポーンさんがやって来た。この人は凄い。技術も凄いけど、非常に博識で興味深い話がたくさん出てくる。ラオスの様々な土地の旋律について語ってくれた。

例によって録音はあまり良くなく、ひずみも多少あるけど無修正で。ケーンはAm標準スケール。

A.ThongXeuy UThoumPhone 2007-03-09 Vientian
  • SutSaNaen スッサネン
    聞いた感じはイサーンのものとさほど違いが無い気がする。

  • RongYai-Noi ロンヤイ(ラムロンヤイ)、ロンノイ(ラムロンノイ)、及びアーンナンスー。
    モーラムで使う旋律、ロンヤイはイサーン地方でのアーンナンスー・ヤイに相当するのかと聞いたらちょっと違うようで、「アーンナンスーならこうだ」と最後に例を示している。
  • LamSing ラムシン
    ラオスのラムシン特有の旋律だそうだ。イサーンのラムシンとの違いとしてテンポを強調していた。タイではテンポが120くらいなのに対してラオスでは110くらい。これはラオスではケーンがリードするのに対してタイではピンやキーボードがリードするようになったから、という話。

  • Toei トァーイ・キャオ
    ラオスのトァーイであるトァーイ・キャオ。キャオは男性が女性を口説いたりすることかと思われる。

  • Vientian ビエンチャン
    その名もビエンチャンという曲。朝7時にこれを演奏する習慣が有るのだとか。ライソイのスケールで始まってライノイと交互に構成されている。
    これは技術的にかなり難しいんじゃないかと思う。以前ヤソートンで地元のモーケーンが演奏したのを聞いたけど、こんな風に流暢ではなかったので全然理解できなかった。

  • Lecture 1 いろいろ解説その1
    ラオス各地、サワンナケートの旋律、パクセーのシーパンドン、サラワン、マハーサイ等の例を少しずつ。ラム・プータイ、ラム・プルァーン、ラム・トァーイの例。プータイも土地によって違うこと。
    男女交互に歌うのに合わせる為にラム・トァーイ・ヤイとトァーイ・ノーイを切り替える手法、等について。

  • Lecture 2 いろいろ解説その2
    上の解説と重なるが、各土地の旋律。
    サワンナケートの基本旋律は、バンソーク (บ้านซอก)、コーンサワン (ครสวรรณ)、プータイ (ภูไท)、タンワーイ (ตังหวาย) の4つであること。
    その他、シアンクワン (เซียงขวง) 、マハーサイ等について。
    ビエンチャンではスッサネンを基本とし、トァーイ・キャオ等が多く、発展してリズムが早くなる一方で優雅さが失われること、等について。

全般にタイ語を使うように気を使ってくれてはいるが、ラオ語が混じる部分でまだ理解できない部分が多く有る。一通り、30分以上話を聞かせてもらった後、「それで、今回は誰の紹介で来たの?」と聞かれてちょっと困った。「メコン川の辺りの、いろんな人の紹介で」とそのまんま答えたけど。

ビエンチャンで習いたければ文書を出せば一週間とか二週間でも習えるよ、と言っていた。いつか機会が有れば、それも良いかもしれない。

モーケーン・トーンスァーイ・ウトゥムポーンさん。

演奏の技術もすばらしいが、非常に博識。実はかなり有名な演奏家なのではないかと思う。コンテストの審査員をすることも多いそうで、タイのウドンタニーでも審査員をしたことがあるそうだ。行き当たりばったりで、ちょっと普通では会えないような人に会っちゃったのかもしれない。

後ろはラオスの古文書の収納棚で、日本人の研究者とかが時々これを見に来るそうだ。

2 comments:

Anonymous said...

リサーチ、楽しませてもらいました。
私の興味は、モーラム=ダンス音楽と捉えた上での話なんですが、ダンスが先にあったのか、リズム/旋律が先にあったのか、という辺りです。ダンスといっても、座って踊るという面もあるようですし、らしいよな、と思う訳ですが。まぁ、答えなんか出てこない話かも知れませんが。

>これはラオスではケーンがリードするのに対してタイではピンやキーボードがリードするようになったから、という話。
これはラオスとて同じなんじゃないでしょうかね?というか、そういう事をタイ側から影響を受けていると見る事も出来るでしょう。

muri said...

kさんこんにちは。
たしかに現在はモーラムと言えばモーラムシンのことを指して、ダンス音楽という面もあるかとは思います。モーラムシンのコンサートとかでは、タイではもはやケーンは飾りになってしまっていますね。文化的にあらゆる影響を受けているラオスではどうなのか、自分は普段のラオスの現状はわかりません。

元々のモーラムといえば、やはりケーンとモーラム(歌い手)だけでの、物語(歴史、おとぎ話、恋愛、王の栄光、宗教的説法、等)や時事を語るものだったわけで、モーラムの語りの抑揚が旋律でそれにケーンがリズムを足す、というものだと思います。記事のローン・ヤイ-ノイ、アーンナンスーの例も、旋律は歌い手の抑揚から来ています。

ラムシンの違いについてですが、「タイではピンやキーボードがメインになっているけど、ラオスでは今でもケーンがリードする。テンポ120では若者しか踊れないけど110なら子供や年寄りも踊れる」と、このモーケーンは言っているようです。今聞いたらこの部分の録音が入ってませんね。後日また足しますね。