2011-08-19

行程メモ 2.リン

リン(ลิ้น)とはリード、音を出す振動板のこと。いわばケーンの心臓部。

まずノミで材料の板から1~2mm幅で棒状に切り出す。でこれを叩いて5mm幅ぐらいに伸ばす。曲がりと凸凹を修正しながら均等に、ゆっくりと伸ばして行く。非常に時間が掛かって根気が要る作業。

やってみると真っ直ぐの板にするのは結構難しい。叩いてる本人は変化がゆっくり過ぎて気付かず、気付いた時にはもの凄く曲がっていたりする。熟練者は曲がり具合を見ながら叩く瞬間に金槌の頭を捻る事で矯正していくが、これは素人にはまず出来ない。対策としては、真っ直ぐ同じ場所で叩いてるつもりならどちらかに曲がるので、裏返して同じように叩く事で対処する。

金槌とアンビルは常に水で浸々にしておく。乾いて熱をもって早く柔らかくなってしまうと出来が悪いものになる。

出来上がった板にノミで切り込みを入れて振動板の形にする。これには鉄のアンビルは硬すぎるので像の骨のアンビルを使う。

測りは使わず全て目分量だがノミの位置決めに非常に時間を掛ける。ケーン一本で16個のリンだから左右の切り込みは32箇所だが、裏側から更にノミを入れることも多い。これも非常に時間が掛かって見ていてもしんどい作業で、ブア先生もこの工程をなんとかしたいと思っているようだ。何か良い方法は有るだろうか?

低音用のリンは特殊な形をしている。

叩く段階で振動板の胴体と頭の部分は薄く、首の部分は厚く残して置く。これによって頭が重くなり、より低い音が出せる。

ノミ入れの後は全体に削って薄くしながら振動板の頭と左右、周りの枠との隙間をマイサー(自然のままでやすりのように使える竹の一種)で調整する。この隙間が狭すぎると振動した時にぶつかるし、逆に離れ過ぎると音がスムースに出なくなる。写真右の振動板部分が見えるだろうか、もの凄く薄い。何度も言うけど根気がいる作業だ。

ケーンの良し悪しの評価の重要な点に、少ない息の消費でスムースに演奏できる、という点が有るが、それに大きく影響するのがこの隙間の調整。隙間が大き過ぎたり均等でなかったりすると演奏により多くの息を使い、いわゆるキンロムと言われて演奏者が嫌うものになる。

リンの原料は金、銀、銅、真鍮などの合金が多いが職人や演奏家の好みによって異なる。ちなみにブア先生の作るリンの原料は以下のような古銭や装飾品。

右のラーマ5世時代の銀貨1枚と5バーツ3枚を鉄職人が溶かしたものが写真の板一枚になる。古銭は貴重だし限りがあるので、思うにこれは非常にもったいない事だと思う。個人的には組成を調べて原料の金属から作ったほうが良いのではないかと思うんだけど。

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