この曲はスリン地方のクラップという打ち木を持って男女が踊る遊戯から発生したものだそうで、つまり元々はカントゥルムの一種。それをポンラン楽団用にアレンジした物が、やがてスタンダードの一つになったと言われている。語頭に「ルアム」が付くカントゥルム由来の曲が多いが、これはクメール語で「踊り」を意味する。つまりタイ語のラム(รำ)と同じ。
しかしこれが他のイサーン音楽由来のもの勝手が違って非常に覚えにくい。子供楽団では旋律は全て口頭で伝えるのだけれど、2回の練習でやっと、とりあえず伝え終わったくらい。
カントゥルム由来の曲が他のイサーン由来の曲と趣が異なるのは、クメールとラオの音楽の違いというのも有るけれど、本来楽器の主役がソー・カメーンと呼ばれるカンボジアの擦弦楽器(胡弓のようなもの)である為。これが基本的に全音階しかない他のイサーン地方の楽器とは異なった味の旋律を奏でる。
ところで旋律が覚えにくいので手っ取り早く採譜しようとネット上で探したが、サンプルが全然見つからないか、有ってもごく一部分だけ。ポンラン楽団用としてはカントゥルム系の曲は割とマイナーなのかもしれない。しょうがないので練習中の全然旋律が定まらない音から採譜した(これ)。その譜を眺めてみると、その覚えにくさの割には全音階からはみ出しているのはドレミでいえばファ#だけ。ということはキーGと考えれば良いのか、と思うとそれでもやはり理解できない部分が多い。で、結局これはキーDとキーCの旋律が交互に混じっている曲であると考えるとしっくりくるようだ。イサーン音楽由来の曲では転調は滅多に無いので、やはり随分と趣が異なる。
ちなみにこの曲、F#を多用する為、ポンランやケーンはほとんどの部分で演奏できないので、ポンラン楽団でやる場合はピンしか活躍できないと思って良い。もちろん楽団にソーが居ればカントゥルムらしさが出て最も相応しいのだけれど。
ところで古典ではないけれど、Monsoon Countryにて現代カントゥルムの歌手ダーキーの曲が公開されていたので聞いてみた。歌詞がほとんどクメール語であることとソー・カメーンの音が始終聞こえること以外、これはもうルークトゥンモーラムの分野とほとんど変わらないように思える。ただ面白いと思ったのはこの二曲目がポンランのスタンダード曲のソァーンガポー(เซิ้งกะโป๋)に旋律も構成もそっくりなこと。ライノイ(F)でやればまさにぴったりと重なってしまう。
現代カントゥルムとカントゥルム歌手ダーキーは日本でも有名らしく、以下のような記述が有った。
- アナーキーインアジアのカントゥルム~ダーキーから新人まで~。
- 作家・前川健一さんのアジア雑語林の2003年ダーキーの死に関する記述。
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