2007-07-24

ルアムチャップクラップ(เรือมจับกรับ)

最近、子供楽団にてルアムチャップクラップ(เรือมจับกรับ)を練習していた。

この曲はスリン地方のクラップという打ち木を持って男女が踊る遊戯から発生したものだそうで、つまり元々はカントゥルムの一種。それをポンラン楽団用にアレンジした物が、やがてスタンダードの一つになったと言われている。語頭に「ルアム」が付くカントゥルム由来の曲が多いが、これはクメール語で「踊り」を意味する。つまりタイ語のラム(รำ)と同じ。

しかしこれが他のイサーン音楽由来のもの勝手が違って非常に覚えにくい。子供楽団では旋律は全て口頭で伝えるのだけれど、2回の練習でやっと、とりあえず伝え終わったくらい。

カントゥルム由来の曲が他のイサーン由来の曲と趣が異なるのは、クメールとラオの音楽の違いというのも有るけれど、本来楽器の主役がソー・カメーンと呼ばれるカンボジアの擦弦楽器(胡弓のようなもの)である為。これが基本的に全音階しかない他のイサーン地方の楽器とは異なった味の旋律を奏でる。

ところで旋律が覚えにくいので手っ取り早く採譜しようとネット上で探したが、サンプルが全然見つからないか、有ってもごく一部分だけ。ポンラン楽団用としてはカントゥルム系の曲は割とマイナーなのかもしれない。しょうがないので練習中の全然旋律が定まらない音から採譜した(これ)。その譜を眺めてみると、その覚えにくさの割には全音階からはみ出しているのはドレミでいえばファ#だけ。ということはキーGと考えれば良いのか、と思うとそれでもやはり理解できない部分が多い。で、結局これはキーDとキーCの旋律が交互に混じっている曲であると考えるとしっくりくるようだ。イサーン音楽由来の曲では転調は滅多に無いので、やはり随分と趣が異なる。

ちなみにこの曲、F#を多用する為、ポンランやケーンはほとんどの部分で演奏できないので、ポンラン楽団でやる場合はピンしか活躍できないと思って良い。もちろん楽団にソーが居ればカントゥルムらしさが出て最も相応しいのだけれど。


ところで古典ではないけれど、Monsoon Countryにて現代カントゥルムの歌手ダーキーの曲が公開されていたので聞いてみた。歌詞がほとんどクメール語であることとソー・カメーンの音が始終聞こえること以外、これはもうルークトゥンモーラムの分野とほとんど変わらないように思える。ただ面白いと思ったのはこの二曲目がポンランのスタンダード曲のソァーンガポー(เซิ้งกะโป๋)に旋律も構成もそっくりなこと。ライノイ(F)でやればまさにぴったりと重なってしまう。

現代カントゥルムとカントゥルム歌手ダーキーは日本でも有名らしく、以下のような記述が有った。

2007-07-12

ラムの歌詞理解を試みる

ラムの伴奏法を身に付けたいと常々思いつつ、ラムクローンを聞いたりラオスのモーラムに習ってみたり(ちょっとだけだけど)と色々やってみてはいるけどなかなか理解が進まない。どうも進歩が無いので必要なことを整理してみる。

以前イサーン楽器の先生に聞いた、ラムの伴奏に必要な知識は以下のような事柄。
  1. 構造を知る。
  2. リズムに追いつき、リズムの切れ目がどの音か知る。
  3. 詩の意味内容を知る。
  4. 旋律を知り、モーケーンも歌えなければいけない。
ラムの構造とは、例えばスッサネンのラムクローンなら前奏があり、語り(ローン)が有り、リズムパートに入って、終わりの挨拶で急激にスローダウンして終わる、等。

リズムの切れ目は、つまり歌い手が息を吸う手前のリズムが落ちる瞬間。このときケーンは和音を入れるけど、歌と合わないといけない。これは歌い手次第なので、練習相手を見つけてから徐々に知るしかないかもしれない。リズムに追いつくのは、それが分かった上で練習するのみ、ということか。

そして「意味内容を知る」が超難関。ラムの内容はイサーン語やラオ語だし、モーラムだけで使われる語(パーサー・モーラム)も多く、普通のタイ人が聞いても理解できない単語も多い。

最後の「自分も歌えること」も難関。ラムの旋律は言葉の抑揚によって生れる、というほどに言葉と密接な関係がある。言葉を理解せず旋律だけで覚えるのはまず無理と最近分かった(今ごろ)。

そんなわけでまず内容理解のとっかかりとして、即興ものは避けてしっかり構成されて分かりやすそうなポンラン楽団とモーラムによるラムプーン(ลำพื้น)の一曲の理解を試みた。この歌は8月12日の母の日(王妃の誕生日)を歌ったもので、ラムとケーンの伴奏では無いけれど自分の周りの先生達やその弟子の間に非常に流行っているもの。自分で書き取るのは能力的に厳しいので、まずはbaanmahaの試聴掲示板にポストしたら、これを見てこの歌を気に入った人が内容を書き取ってくれた。これは詩の内容理解にかなり役立った。

これを元に、人に聞きながら間違いを直しつつ、リズムに区切って表にしてみたのが以下のもの。
これを見ながら何度も聞いてみると、不思議なくらい合わせて歌えることがわかった。これを覚えるまでやればよさそうだ。

そして試しに身近の音痴なタイ人に見せて同じようにやってもらって見た所、リズム枠の通りに歌えば一致するのでやはり正確なリズムで歌えた。もともと旋律は言葉の抑揚に沿って上下している為、これだけで音の上下とリズムは把握できる(この人、音痴なので音程は正確ではないけれど)。そんなわけで、この試みは収穫が有った思う。

ところでこのように歌詞をリズムに区切って見ると、西洋音楽で言う拍子の一拍目が枠の最後に来るようにすれば、単語のほとんどが綺麗に枠の中に収まるようになる。もしかしてタイ式楽譜の一拍目が枠の最後にあるのもこういう理由なのかな?と思った。参考: タイ式楽譜の読み方